Bertrand Du Guesclin─と、フランス語では綴ります。『双頭の鷲』の主人公の名前ですが、最初みたときは私自身「ベルトラン・デュ・ゲクラン」とは読めませんでした。まさに、聞いたこともない。逆に興味をかきたてられ、よくよく調べては、これは面白いぞと小説に書いた私でしたが、当時まだ三十歳、やはり若く、無謀だったとの誹りを免れえないことになりますか。なにしろ、ただでさえとっつきにくいとされる西洋史で、ほとんどの日本人が初耳というような人物を、好んで取り上げたのですから。 そこは渾身の一作─当座は自分でも驚いたほど読んでいただきましたが、その後も長く読み継がれるとまではいきませんでした。私のほうはといえば、あれから四半世紀になりますが、ずっと西洋歴史小説を書き続けています。読者も増えて、今なら『双頭の鷲』も受け入れられるのじゃないかと夢想たくましくしていたところ、かなえられたのが今回の復刊なのです。また読んでもらえる。もう嬉しいの一語です。